酒の強要を断れない学生寮

読売新聞2000.5.9 主婦 38 (東京都江戸川区)  この春、志望の国立大学に合格した息子に、私は寮に入ることを勧めた。規 律を重んじ自立の第一歩を経験してほしいことと、深い友人関係が築かれるこ とを望んだからだ。  入寮してから一週間後、「寮を出たい」という思い詰めたような電話があっ た。理由は度々ある飲み会で先輩から酒を強要されることだった。おちょこ一 杯で心臓が飛び出しそうになるほどの下戸の息子にとって、ビールの一気飲み の繰り返し、酒で作ったワカメのインスタントスープ、お茶漬けならぬお酒漬 けなどは、拷問に近かった。意識がなくなり、顔が青ざめ、体がけいれんした 状態になったこともあったという。先輩に勘弁してほしいと訴えたが、聞き入 れてもらえなかったようだ。  苦しむ自分の代わりに酒を飲んでくれた同室の友人とは離れがたいといいな がら、泣く泣く退寮せざるを得なかった。学校に提出する退寮届には、退寮の 本当の理由は書くな、と寮長から念を押されたという。  息子は自宅から通学できるが、寮に入らざるを得ない学生はどうしているの か。酒が飲めないのは、やる気や根性とは何の関係もない。体質的にアルコー ルを受けつけない人もいることを理解してほしい。